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日々のメモ

『日本狂詩曲』の名盤 –––– その3

やっとこせ、ようやく『日本狂詩曲』の録音レビューを始めたいと思うが、評価にあたっての観点、いくつかの備考を始めに記述しておく。 


 ・順番は指揮者のアイウエオ順である。

 ・評価は★で示し、5つを上限とする。

 ・①演奏、②録音、③総合評価(①と②から計算)が観点。


なお、評価の際に自らの感覚と思考を信じない態度など、つまり独断と偏見なきレビューなどは糞だと考えるので、独断と偏見を恐れず評価する。 

 


 ○石丸寛 / 新星日本交響楽団 – 1993年(録音年) 


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石丸寛(1992〜1998)といえば屈強な面相が印象深い指揮者・作曲家ではなかろうか –––– 私はこの渋い顔は好きである ––––。オケの方は『日本狂詩曲』の常連、新星日本交響楽団である。

まずひとことで感想を述べさせていただけるのでれば、全体的に「きちん」とした演奏に仕上げている。

第1楽章のテンポはやや速めか。平凡な演奏ではあるが、ヴィオラ独奏の妖艶さは損なわれていない。打楽器もひとつひとつがしっかり聴こえてくる。ただ、後半が軽いという印象をもつ。第2楽章も比較的平凡な演奏ではあるが、中間部のピアノがとても明瞭に聴こえる。ピアノやハープは特に打楽器に掻き消されやすい楽器なので、ピアノがしっかり聴こえる点は嬉しい。最後の最後でアッチェレランドを仕込んであるが、アンサンブルは崩壊することなく揃っている。これらの意味において、全体的に「きちん」としていると表現した。 とても惜しいのが録音の状態がいまいちな点である。終始高音のノイズがはいっており、演奏中ところどころ気になってしまう。  


演奏 ★★★ 
録音 ★★ 
総合 ★★半  

収録アルバムは廃盤だが、奇特な方がYouTubeに動画を上げている。

 

井上道義 / 大阪フィルハーモニー交響楽団 – 不明

井上道義 / 新日本フィルハーモニー交響楽団 –2018)

 

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一応設けたものの、私は第2楽章しか聴けていない。ニコニコ動画にアップされていたのである。

テンポが馬鹿みたいに遅い。とても72歳に見えないミッキー(1946〜)は伊福部作品をよく振るのだが、伊福部に「速すぎる」と注意されたことがあるらしい。また、この指揮者は割と楽譜を改変する方で、ピアノが木琴になっていた。迫力は凄く、ねっとりというよりずっしりとした印象。日本の祭りでは絶対にない。

ところで、今月の5日に井上道義 / 新日本フィルハーモニー交響楽団の『ヴァイオリンと管弦楽のための協奏風狂詩曲(Vn協奏曲第1番)』と『日本狂詩曲』の演奏を聴いてきたのだが、『日本狂詩曲』では弦楽と木管、ハープ、ピアノの仕事がよく知れたので、この作品は生で見るとなかなか面白い。「夜想曲」はしっかり仕上げられており、ヴィオラとミッキーの掛け合いのようなやりとりがとても素敵だった。「祭」は指揮者も演奏者も客もほぼ全員が乱痴気大騒ぎで、ところどころ音が聴こえなくなる事態に。会場の雰囲気は最高だった。

 

大阪フィルハーモニー交響楽団

演奏 ★★★

録音 ★

総合 ★★

 

新日本フィルハーモニー交響楽団

演奏 ★★★

雰囲気 ★★★★

総合 ★★★半

 


岩城宏之 / 東京都交響楽団 – 1990年

 

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岩城宏之(1932〜2006)は、巨匠と呼び声高いだけあって素晴らしい演奏をしてくれている。間違いなく名盤に数えられる。 
第1楽章の艶やかなヴィオラに妙な汗を流してしまう。テンポは悠々とゆったり。背景で演奏される弦楽器の高音レガートの静かな迫力はおそらくこの録音・演奏が最高である。妖艶さがたっぷり感じられる名演だ。第2楽章も濃厚な仕上がり。冒頭から「祭感」が溢れ出ており大変楽しい。トランペットソロも綺麗に演奏されている。「祭感」が強いのは太鼓の縁を叩いようなウッドブロックの音が鮮明なためか。最後から48小節遡ったところからが『日本狂詩曲』のなかで個人的に最も好きな部分なのだが、残念ながらここから金管のミスが少しながらも続く。とはいえ、ラストへの盛り上がりと全体の雰囲気は損なわれていない。なんともはや、見事。 

 

演奏 ★★★★半
録音 ★★★★
総合 ★★★★1/4
 

伊福部昭の管絃楽 Orchestral works by Akira Ifukube

伊福部昭の管絃楽 Orchestral works by Akira Ifukube

 

 ただし、この録音もYouTubeにある。


 
 ○小泉和裕 / 新交響楽団 – 1994


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数ある日本狂詩曲の録音・演奏のなかでも、なかなかの爆演。小泉和裕氏(1949〜)唯一の伊福部作品ではないだろうか。
第1楽章のヴィオラは咽び泣くような音色。このように表現するならテンポは遅い方が個人的には好き。全体を通してあっさり気味。しかしながら、とても全体はしんみりとしており丁寧に演奏しようとしている努力がよく伝わってくる。第2楽章の冒頭、しばし二拍子の旋律あって三拍子に変わってからのTuttiが凄い。なるほど、これを狙っての第1楽章の静けさだったのであろうか。風景がガラリとかわって一気に情熱的な演奏になる。ただ、あまりにも音量の変化が大きすぎる –––– これは録音のせいでもあるだろうが ––––。また、ミスが目立つ。 
録音は決して良いとは言えないように思える。『日本狂詩曲』だけでなく、カップリングされている『交響譚詩』、『日本組曲』などもどこかぼやけた音になっている。『交響譚詩』や『日本狂詩曲』の第1楽章のような情感に迫る作品は滲んだ音響のほうが良いように思うのだが、『日本狂詩曲』の第2楽章はパキッとした演奏の方が個人的には好き。  
 
演奏 ★★ 
録音 ★★ 
総合 ★★  

 

伊福部昭:傘寿記念シリーズ

伊福部昭:傘寿記念シリーズ

 
 
こちらもYouTubeにあり。

 
 
○高関健 / 札幌交響楽団 – 2014年

 

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私は高関健氏(1955〜)の指揮がとても好きである。以前、高関健 / 東京藝術大学フィルによるショスタコーヴィチ交響曲第8番の演奏を聴きに行ったが、名演であった。『日本狂詩曲』でも楽しい演奏を聴かせてくれている。 
第1楽章のテンポはどんな録音・演奏よりも遅く、ヴィオラ古楽器のような表現は見事。音量の調節もヴィオラと他楽器の息が合っており、完成されて。高関氏はスコアの解釈と曲の味付けの匙加減がとても絶妙である。ラストのヴァイオリンソロ、ハープソロが官能的。第2楽章は思わず「やられたっ!」と思われるに違いない。新解釈とでもいおうか。とてもゆっくりしている。スコアの指示テンポより全く遅い。ヤマカズ(1980)盤を聴き慣れている方なら違和を感じるかもしれない。だが、これによって音のマッスがすこぶる分厚い。打楽器の旋律も激しく、弦楽、木管もちゃんと聴こえる。クライマックス近く、 G G G Ges G G G Ges・・・の旋律のたびにリタルダントがかかる工夫にストコフスキーのタコ5の演奏を思い出してしまう。『日本狂詩曲』を聴きまくってきた人は特に楽しめる録音である。

録音の質は第2楽章がクリアすぎるところが気になるが、そのほかに問題はない。ライヴ盤だが、拍手や咳の音は処理されている。因みにカップリングされている『音詩 「寒帯林」』も名演である。尚、2014年に高関氏は次のようなツイートをされていた。

 

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演奏 ★★★★
録音 ★★★
総合 ★★★半

 

伊福部昭の芸術10 凛―生誕100周年記念・初期傑作集(仮)

伊福部昭の芸術10 凛―生誕100周年記念・初期傑作集(仮)

 

 


(次回に続く