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日々のメモ

『日本狂詩曲』の名盤 –––– その5 (最終回)

山田一雄 / 新星日本交響楽団 – 1980

 

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おそらく、「この曲といえばこの演奏」的存在。1980年の山田一雄(1912〜1991)による伝説ライヴ録音。Amazonや他者様のブログなどのレビューを見ても、多くの方々がこの演奏をイチオシしているようである。私は「果たしてこの作品の演奏はこれでいいのか?」感をどこかで持ってしまう。伊福部が目指していた作品の形があったはずだが、どことなく山田一雄のこの演奏は外れている気がする。だが、それでも私はこの演奏がやはり好きである。指揮者・演奏者の独断を否定することは、音楽の面白さと価値の大事な何かを否定することでもあると考える。それに、誰が聴いたってこれは名演だ。

第1楽章のテンポは、他と比べて極めて速い。岩城が7分台、高関・広上が8分台なのに対し、ヤマカズは6分台で終わっている。この演奏は2楽章がやばいのだが、既に一種異様の雰囲気が滲み出ている。中間部の弦楽のレガートの切れるような高音と、深淵から響いてきたような低弦の音が恐ろしささえ感じさせる。改めて聴くと、かなり奇怪な〈夜想曲 nocturne〉である。第2楽章冒頭、シンバルとスネアが狂ったように音を立てる。シンバルは銅鑼のようだ。伊福部は作曲にあたって札幌の祭りを取材したらしいが、これ(ヤマカズの演奏)は絶対に日本の祭りではない。異国の情熱さを感じる。もしかしたらこの演奏は国籍に囚われない、他文化にも通じる祭りの熱気を結果として外出させることに成功しているかも知れない。ラスト付近はもう金管と一部の打楽器しかほぼ聴こえなくなる。本作一の爆演。おそらく現場は相当熱気に包まれたに違いない。観客の「ブラヴォー」を聞けば容易に想像できる。

録音は決して悪くない。ライヴの臨場感がしっかり伝わってくる。ヤマカズの(跳んでるのか床を蹴ってるのかわからないが)足音や唸り声もちゃんと録音されている。

 

演奏 ★★★★

録音 ★★★★

総合 ★★★★

 

伊福部昭交響作品集

伊福部昭交響作品集

 

 

伊福部昭 作品集

伊福部昭 作品集

 

 

YouTubeに第2楽章のみアップされている。

 

 

山田一雄 / 新星日本交響楽団 – 1990

 

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おそらく前述の1980年録音と比べて、全く知られていない録音。演奏が行われた1990年は、山田一雄逝去の前年である。知られていないが、この演奏こそ「山田一雄の『日本狂詩曲』」の極地であり、「『日本狂詩曲』のひとつの完成形」であると私は強く思っている。白眉の演奏。

第1楽章は道化のよな雰囲気である。不気味な楽しさと惨憺な縹渺が混ざったような。全体の長さは7分台になったものの、決して遅い方ではない。ピアノの音が鮮明。やはり中間部の弦楽と木管の重奏の厚みが凄い。不覚にも鳥肌が立つ。第2楽章は冒頭のティンパニタムタムだろうか、打楽器の重奏がシンコペティックな構成に編曲されており面白い。全体を通してテンポの緩急と音の強弱にヤマカズ独特の味付けがなされている。ラストの急激なアッチェレランド直後のリタルダントの工夫に唖然とする。酔っ払ったような金管と力士のような打楽器、おどけた木管に弦楽。ここまでやるか、ヤマカズ。

録音も悪くない。最高のアルバム。

 

演奏 ★★★★★

録音 ★★★★

総合 ★★★★半

 

残念ながら、収録されている『山田一雄の芸術』は、現在は廃盤。調べた限りでは販売やレンタルはされていない。

しかし、大変奇特な方がYouTubeに最近あげられた。既にカップリングされている『ラウダ・コンチェルタータ』もあげられていたのだが、大変有難い。余談だが、この『ラウダ・コンチェルタータ』も最高峰の演奏だ。

 

 

山田一雄 / 東京都交響楽団 – 1962

 

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おそらく最古の録音。一説には後述する若杉弘 / 読売日本交響楽団ともあるが、私はこのヤマカズ版を最古としておく。

第1楽章は、3つのヤマカズ指揮の録音のなかでは最もゆったりしている。のちの2つに比べるとどうしてもまだ未熟に聴こえる。第2楽章はすこぶる楽しい。この演奏ではヤマカズが趣向を凝らしてクラベスが韓国の楽器である拍板、ウッドブロックはインドネシアの楽器のラリが使われている。書き忘れたのだが、伊福部はクラベスor拍板、ウッドブロックorラリ、カスタネットor繞跋と指示している(そしてつくづく思うのだが、ヤマカズは1980と1990の2つの演奏でも、この3つか、あるいはいくつかを採用しているのではないだろうか)。この演奏では1980年では完全にどっかへ行ってしまう木管やハープ、ピアノ、小打楽器の音がよく聴こえる。

録音は流石に古いものの、最悪ではない。

 

演奏 ★★★半

録音 ★★半

総合 ★★★

 

 

 

ニコニコにあり。但しLP版。

 

 

若杉弘 / 読売日本交響楽団 – 1967

 

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ご覧の通り、これまで指揮者のなかで、若杉弘(1935〜2009)は最も正統派の「いい男」である。この方はお年を召されてもハンサムだった。この録音は私の最も好きな録音。伊福部は後に大著『管弦楽法』を記すが、彼のオーケストレーションは大変優れていたと思う。土俗的な旋律や、時代への反骨精神が彼の大きな魅力とされている(もちろん事実である)が、その管弦楽作品の構造と設計は天才的だったと思う。吉松隆は『管弦楽法』の愛読者である上に、「『管弦楽法』を読まない作曲家など作曲家ではない」とまで言い切っている。個人的に驚いたのは、あの柴田南雄でさえ「巧妙」と語っている事実だ。端的に録音についていえば、本作の構造の複雑さが最も理解できる録音である。

第1楽章、録音のためなのかヴィオラのピッチが微妙に低いのが気になるが、とても丁寧な演奏。ハープとピアノの掛け合いがよく聴こえる。木管の淋しげな雰囲気もよく出ている。第2楽章はやや遅めのテンポ。Tutti後の打楽器重奏を終えてからのトランペット、ハープ、木管の導入部がとても素晴らしい。箱を開けたら色とりどりの仕掛けが飛び出てきたような印象。ラスト近くの個人的に最も好きな部分の演奏も最高。金管のE4 D4 B3 A3 B3 D4 E4 D4 E4 ・・・が鮮明に聴こえる。再び金管が同じ旋律を始めたところでピアノが導入するのだが、ここからの完成度が凄い。小節でいうとラストから遡って34小節目から。クライマックスの木管の演奏は『鬢多々良』のラストのよう。

録音は最悪ではないものの、やはり古いために決して良くはない。第2楽章終了後、最後の数小節がゴーストのように残っている。しかし、長らくお蔵入りになっていたこの素晴らしい録音が日の目をみたことは有難いことである(若杉氏は『リトミカ ・オスティナータ』でも驚異的な仕事をされているが、『日本狂詩曲』でも素晴らしい仕事をしてくださった)。紛れもなく名盤であろう。

 

演奏 ★★★★★

録音 ★★★半

総合 ★★★★1/4

 

 

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伊福部昭+有馬礼子

伊福部昭+有馬礼子