aphanisis

日々のメモ。なお、記事はすべて真実

感情に距離をもつ音楽家のいくつかの音楽

 

感情の奴隷になってはいけない –––– ジョン・ケージ

 

いやあ、そんなこと言われてもね、奴隷になっちゃうよ、僕は。

あなたのいくつかの作品を聴くとね。

 


Four Walls: 高橋アキ

 

コンテンポラリーダンスの巨匠でありケージのパートナーでもあったカニングハムとの仕事のなかで生まれた作品らしい。おそらく舞踊のための音楽なのだろう。3日前の夜に知ってすっかりやられちゃった。ここに貼ったのは高橋アキの演奏なのだがナクソスから発売されているレン・タン / ラ・バーバラ盤もよい。

 

カニングハムの舞踊のために作った作品の数は少なくないと思うのだが(ネットの反応を見る限り)『Dream』は極めて人気の高いピアノ曲だと思う。ケージの音楽のなかでもかなり“ミミアタリノヨイ”作品で高校時代にピアノをやる先輩に教えたらすっかりお気に入りにしてしまっていた。

 

ケージの“ミミアタリノヨイ”作品の代表は『In a Landscape』。こちらはカニングハムではなく或る女流ダンサーの作品に捧げられたピアノ曲である。「モーダルな旋律の断片が緩やかに浮遊する・・・通常のピアノの陰影深い響きがひとときの夢のよう」と浅田彰も評するこの曲をきっかけにボクはケージを好きになった。

 


John Cage: In a landscape (1948)

 

 

 『In a Landscape』のつぎに好きになったのがヴァイオリンとピアノ或いはハープのための『Six Melodies』。特に「Melody 3」。

 

 


John Cage -Six Melodies

 

 

声楽作品『Litany for the Whale』は隠れた名曲だと思う。鯨の鳴き声を表現しているのであろう母音の発声だけに限られた歌唱はタイトルの通り連禱を思わせる。ケージはある時から賛美歌を素材にした声楽曲に取り組むことが増える(一説によれば『Apartment House 1776』かららしい)が『Lltany for the Whale』もその直線上に配置される作品と見做して良いと思う。声の聴こえてくる方向がその時々で異なる演出が面白い。

 


John Cage - Litany for the Whale (1/2)


John Cage - Litany for the Whale (2/2)

 

 

感情の奴隷になることを厭わず躊躇わず、むしろ率先的に彼の鳥籠に幽閉されにゆく。

沈黙の嘘を教えるケージの実に詩的と呼んで差し支えないであろう音楽群を聴くと、作曲家の朗らかな笑顔が脳内網膜に映し出される。同時に惨憺とした彼の人生の一側面があったことを思い出してしまう。おそらくこれこそがジョン・ケージの音楽に感動してしまう最もたる理由に違いない。凡そ私的な作曲家の実情と作品を重ねて接近する姿勢など僕は好まないのだけれど、未だジョン・ケージのいくつかの音楽の前にはそれができないでいる。