aphanisis

日々のメモ。なお、記事はすべて真実

姉について

 

 

姉が発狂したと聞く。

 

歳は三十路にさしかかるこの姉は、父の前妻の子であり、従って関係は義理である。

ながらく障碍児の介護だか、臨床心理学の勉強だかやっていたらしいが、いまは知らない。背丈は高くなく、瞳が父に似ていたと記憶している。

 

 

 

姉との想い出はたったふたつのことしかない。

 

たしか十年ちかく以前の話だが、偶々ボクが祖母の自宅に遊びに来ているとき、唐突に現れ、そこで大きな蟹を二人で頬張った。祖母が親戚から頂戴した鱈場。光沢の紅と白の艶やかな脚肉を、酢につけて食べた。

 

もうひとつは、それから二、三年あとのこと。母と三人で狂言を観た。たしかあれは『雷電』だった気がする。姉は野村萬斎に心酔しており、幼い時分のボクに散々、彼のことを語り聞かせてくれた。未だ姉が萬斎に惚れ込んでるのかは定かではない。

 

 

以前よりそのケはあったらしいが、遂に発狂したという。 

祖母も父も姉の気のふれように愕然としており、また怒りを覚えていた。

 

 

しかし、祖母と父と母が姉について語るなかに、ぼくは確実にべつの狂気をみてしまった。